2013(平成25)年度京都公立高校入学選抜募集定員等への見解

府立高教組は、2013(平成25)年度京都公立高校入学選抜募集定員、募集要項について、見解を発表しました。

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競争の教育でなく、

きめ細かな教育を受ける権利の保障を

 ~2013年度京都公立高校入学選抜募集定員、募集要項に対する見解~

2012年9月12日  京都府立高等学校教職員組合 

 京都府教育委員会と京都市教育委員会(以下、府教委、市教委)は、8月27日、2013年度公立高校の入学者選抜要項と募集定員を発表しました。

 1.2013年度入学者選抜要項の概要                                                                    

■ 公立中学校卒業見込数と募集定員等 

 ○公立中学校卒業見込数は20,787人(前年度比444人減)。公立高校の募集総定員は14,270人(前年度比全日制770人減、定時制30人減で合計800人減)。
 ○公立高校の収容率は全日制では前年度から2.3ポイント減の68.6%に。
                                                      
■各校の定員の増減

 ○全日制は、京都市北通学圏普通科Ⅰ類では、鴨沂、北稜が各80人減、紫野、山城、北嵯峨、桂、洛西が各40人減。合計で360人減。
 ○京都市南通学圏普通科Ⅰ類では、東稜が80人減、日吉ヶ丘、洛水、塔南が各40人減、Ⅱ類では、向陽が40人減。合計で240人減。
 ○山城通学圏普通科では、木津が40人減。
 ○口丹通学圏普通科では、北桑田が10人減。
  ○丹後通学圏普通科では、加悦谷、峰山、網野が各20人減。Ⅲ類では加悦谷が10人減。総合学科では久美浜が10人減。合計で80人減。
  ○専門学科は、洛陽工業・工業科が30人減。園部・京都国際科が10人減。
 ○定時制は、鴨沂普通科が30人減。
                                                       
■ 入学者選抜制度 

 ○山城通学圏全日制普通科で、定員に充たない高校について、高校名を指定せず希望する(「どこでもよい」)制度の廃止。
 ○長期欠席者特別選抜を西京高校定時制で実施。定員5名。

 2.希望者が入学できる「公立全日制の定員」の確保を
                                                       
1クラスの生徒数を減らし、 きめ細かな教育を保障する措置を府内全域へ

 今回の募集定員で重要な改善点は、丹後通学圏を初めとする北部での生徒減少期にあたって、府教委が高校の統廃合や学級数を減らさずに、1クラスの生徒数を減らす少人数教育を初めて導入したことです。
 これは、すでに70%以上の府内公立中学校が35人以下学級で学んでいる下で、5年先から府北部地域で少子化が進む時期に対応して、一人ひとりに対するきめ細かな指導を保障し、充実を図ろうとする府教委の見識であると評価します。
 こうした視点が府内全域に貫かれることを期待します。
                                                      
京都市北・南通学圏公立高校の定員大幅減  ---「総合選抜」廃止への布石 

(1)作られた私学志向
 2010年度から公立高校授業料不徴収(高校無償化)が、国の制度として実施されました。京都では、2011年度から「私立高等学校あんしん修学支援事業」を拡大し、年収500万円未満世帯に府内私立高校の平均授業料65万円までを実質無償化する措置が取られました。
 公立高校の定員は2010年度入試までは【表1】のように、公立中学卒業生数の73%程度で推移しています。2011年度は、私学授業料無償化の拡大によって、大幅な中学卒業生数減の中、公立高校は3%定員割れし、私立高校は前年度並みの入学生数を確保しました。その「私学への流れ」を受けて、2012年度は、公立高校ではほとんど定員を確保せず、私立高校の入学生数は890人増加しました。
 そして来年度、公立高校は800人もの定員削減を行いました。このうち京都市北・南通学圏は600人減です。府南部の「私学志向」は私大附属高校から大学進学に直結する期待と同時に、公立高校の定員削減が作った側面も大きいのです。

(2)京都市北・南通学圏「単独選抜」導入への布石
 京都市北・南通学圏の定員割れはⅡ類で起こり(2011年度9校、2012年度6校)、それをⅠ類「総合選抜」で調整してきました。この数年、これまで全日制普通科には合格していなかった生徒も合格するようになり、現場は対応に苦慮しています。来年度、京都市北・南通学圏で削減されたのは、この数年間で定員割れを起こした学校と10クラス規模の大規模校です。
 公立高校全日制の定員を減らしながら、2014年度入試から「京都市通学圏の1本化、普通科として学校ごとの単独選抜」を行えば、「複数校志願」制を導入したとしても、第1志望第1順位を不合格になる受検生が出ます。また、公立高校全日制を不合格になり、定時制に進学する生徒も増加します。それを嫌う受検生は私立高校への進学を決めるという「自然な流れ」を京都市通学圏で作ろうとするのが、この間の公立高校定員削減です。

(3)「競争」の教育が行き着く先
 公立から私立への極端な定員比率の移動を進めれば、どんなことが起きるでしょうか。
 大阪府・市では橋下市長が率いる「維新の会」の下で、強引な「教育改革」が進行しています。特定の学校を「進学指導特色校」に指定し、私立高校への修学支援制度で実質授業料を無償化し、公立と競わせています。公立高校の学区を撤廃し、定員割れが3年続く公立は統廃合、私立は補助金カットという内容です。これが「競争」の教育の行き着く先です。京都でもそこにつながる危険性があります。
 「競争」の教育にさらされると、公立も私立も、受検者が集中する学校と受検者が少ない学校との二極化が進みます。
 急激な生徒増をした私立高校では、教室不足や1クラスの生徒数の増加、一年契約の講師の増加、奨学金等の学校負担の増加など、教育条件の低下が危惧されます。また、生徒が集まらない私立高校は経営上の危機に直面します。
 公立高校でも同様に、普通科系専門学科に受検生が集中する一方、入学する生徒が減少する高校は、統廃合によってその地域から高校がなくなることも起こってきます。
 このように、「競争」の教育の行き着くところは、教育条件や教育内容の切り下げ、学校統廃合などの教育リストラであり、教育格差によって子どもたちの教育を受ける権利は制限されることになります。
 適正な定員比率の協議と「京都では、大阪のような教育改革はしない」という、府・市両教委の明確な宣言を期待します。

3.京都市・乙訓地域の高校制度と入学者選抜制度の改革について

「2014年度実施」に向けた動き

(1)秋に予定される「改革推進計画(案)」
 「京都市・乙訓地域高校教育制度に係る懇談会」の「まとめ」(答申)を受けて、府・市両教委は「秋に具体的な方向を出す」としています。
 答申された内容は、主に次の4点です。
①Ⅲ類を除く類・類型制の廃止
②京都市北・南通学圏の一本化
③普通科Ⅰ類の「総合選抜」を「単独選抜」に
④入学者選抜に「学校裁量の導入」を検討
 2011年度から山城通学圏で、2012年度から口丹以北の通学圏で実施されている入学者選抜方式を、一本化された京都市・乙訓通学圏で実施することで、府全体を統一して「わかりやすい制度にする」というのが第1ステップです。そのために、京都市通学圏の高校は強引な「特色づくり」の検討を求められています。また、いくつかの専門学科の推薦選抜では、報告書や「適性検査」に傾斜配点がされる可能性もあります。

(2)古びた公立高校を専門学科や私学並みの教育環境に
 たび重なる改悪で歪められてきた「総合選抜」制度の下で作られた学校間の格差は明らかです。
 現在、行われている「府立高校特色化プラン検討会議」でも、「公立と私立は設備が違う。保護者は『入れて安心』な学校を選ぶ意識があり、子どもも『キレイ=安心』な学校という意識がある。」と保護者のニーズを分析した発言がありました。そうしたニーズに公立高校が応えるためにまず教育委員会がすべきことは、古びた公立高校を、一部の専門学科設置校や私学並みの教育環境に整備することです。
 また、定時制の定員を減らし、「特色ある学校づくり」を進めてきた市教委の責任はとりわけ重大で、市立中学の卒業生数をカバーできる市立高校全日制の定員増が求められます。

改革についての「私たちの提案」

 京都市・乙訓地域の高校制度・入学者選抜制度の改革について、私たちは次のような提案をしています。

(1)公立高校教育の改善に関する提案
 1)どの高校に行っても格差のない豊かな高校教育を保障するため、施設・設備、教職員配置など教育条件面での学校間の格差をなくすこと。
 2)普通科の類・類型制度は廃止すること。
 3)学力的に困難な生徒を多数受け入れている高校での学級定員を30人程度に減らし、きめ細かな少人数教育を進めること。
 4)高校教育に入るための学力が十分に身についていない子ども、さまざまな理由で義務教育の水準が保障されなかった子どもに対する「学力回復・学び直しのための支援システム(注参照)」を確立すること。

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(注)「学力回復・学び直しのための支援システム」とは

ア 様々な理由で義務教育段階終了までの学力が身についていない子どもたちに、中学校段階での支援システムをつくり、高校教育への接続をスムーズにするためのしくみを確立する。
イ 高校入試における選抜試験は、中学校での学力水準を確認し、入学後の学習指導の基礎資料とするための「学習到達度テスト」あるいは「中学卒業認定テスト」(仮称)に変えていく。
ウ 高校段階で必要とされる学力水準に十分達していないと判断される子どもたちには、入学後の高校で「補修クラス」に短期間在籍し、学力の「補修」を集中的に行った上で、他の生徒と同様の教育課程に合流させる。
エ こうした支援システムをすすめる上で必要な教職員の加配措置を行う。また、学校が抱える課題に対応して、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなど、生徒支援の専門職を配置する。
オ 経済的困難な家庭の高校生に対して、現行の高校授業料不徴収を継続することをベースに、給付型奨学金制度や高校生版修学援助制度の創設など、新たな修学支援措置を講じる。
カ 中学校でのゆきとどいた教育をすすめるため、中学校での30人以下学級を早期に実現するとともに、学習面・生活面で困難を抱える中学校では学級定員を思い切って20人程度に引き下げ、きめ細かな指導ができるように、教職員の加配措置を講じる。

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(2)入学者選抜制度の改善に関する提案
 1)志願率に見合った全日制高校、とくに公立高校全日制への入学枠を拡大するとともに、私学の学費無償化をすすめ、公私の格差なく高校教育を保障すること。
 2)普通科における「類・類型」による選抜を廃止すること。
 3)通学圏はこれ以上拡大せず、当面、現行の北・南の2通学圏を維持すること。将来的には通学区域の縮小をはかること。
 4)地元の高校に行きたい子どもが行けるよう、普通科募集定員の50%程度を「地元枠」に設定するとともに、以下の点を中心に選抜制度の改善をはかること。
 ①現行の「停留所方式」を廃止する。
 ②「地元枠」は居住地を基本に「総合選抜」のメリットをいかした選抜制度とする。
 ③「地元枠」を除く募集定員は「希望枠」とする。
 ④「地元枠」の選択に地域的な格差が生まれないよう、必要な場合は普通科の配置の調整を行う。
 ⑤入試制度の改善に向けた開かれた協議をはじめる。協議には現場教職員、保護者、高校生代表、府・市民の代表などが参加できるようにする。

 

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