2012年度京都公立高校入学募集定員、募集要項に対する見解

9月27日、府立高教組常任執行員会は、2012年度京都公立高校入学募集定員、募集要項に対して、次の見解を発表しました。

定員見解

入口で進路を閉ざさず、子どもの意欲を育む高校教育を!

 ~2012年度京都公立高校入学募集定員、募集要項に対する見解~


2011年9月27日  京都府立高教組常任執行委員会 

1.2012年度入学者選抜要項の概要

公立中学校卒業見込数と募集定員、収容率

○公立中学校卒業見込数は21,231人(前年度比975人増加)。公立高校の募集総定員は15,070人(前年度比全日制80人増)で合計80人の増。
○公立高校の収容率は全日制では前年度から2.8ポイント減の66.2%に。

定員

○全日制普通科では、京都市北通学圏(北稜高校)と南通学圏(東稜高校)でⅠ類各40人の増、他の通学圏は変更なく、全体で80人の増。専門学科、定時制の定員も変更なし。

選抜制度

○口丹・中丹・丹後通学圏でⅠ・Ⅱ類の類・類型制を廃止し、普通科としての募集に変更する。
○農芸高校を農業学科群として一括募集する。
○特色選抜の募集定員を総定員の10%から京都市北・南通学圏15%に、山城通学圏20%に拡大する。
○推薦入学では、洛東高校普通科総合選択制と宮津高校建築科の推薦定員を総定員の70%から50%に変更する。
○洛東高校普通科総合選択制の一般選抜の合格者決定方法をⅠ類と同様に扱うよう変更する。
○外国人生徒等日本語習得が十分でない生徒の受検に当たって、問題文にルビを振るなどの配慮を、中学校長の申し出により行う。

2.希望者が入学できる「公立全日制の定員」の確保を

「安心・安全」の学校づくりは公立高校の定員確保から

 文部科学省が発表した「就学援助を受ける小・中学生を持つ世帯」は京都府で20%、5人に1人と過去最多です。
 リーマンショック以後、「お金がなくて学校を続けられない」という全国的な運動と世論を反映し、2010年度から「社会全体で若者の学びを支える」政策として、公立では授業料不徴収、私立では就学支援金支給という形で高校授業料無償化が国の制度として実施されました。
 京都府ではそれに対応して2011年度から「私立高等学校あんしん修学支援事業」を拡大、年収500万円未満世帯に府内私立高校の平均授業料65万円までを実質無償化する措置が取られました。
 しかし、入学金や制服、教科書代等で入学段階では50万円程度は必要です。現行の制度だけでも残念ながらまだ安心して誰もが私立高校に通える状況にはありません。
 今、民主・自民・公明が結んだ「3党合意」では、東日本大震災の復興支援予算確保という名目で、2012年度末での公立高校授業料無償化の見直しが謳われ、京都府の制度を維持できるかどうかも流動的な状況です。
 現在の高校在学生だけでなく、来年度私立高校に入学できても、国の制度が維持できなければ、府の制度も維持できなくなる可能性も高く、2年次以降の学業継続が困難になりかねません。
 このような流動的な時期には、公立高校の定員をしっかり確保することが、府民の「安心・安全」を守る学校づくりとして、教育行政が行うべきことではないでしょうか。

大幅な受検生増を私立高校に「丸投げ」

京都市北・南通学圏「総合選抜」廃止への実験か

【表1】《公立高校定員占有率は、この4年間、ほぼ73%で推移》
│入試年度│公立中学卒業生見込│公立高校募集総定員│公立高校定員占有率│
│  2008   │         20,430人          │         14,800人         │          72.4%              │
│  2009   │         20,121人          │         14,680人         │          73.0%              │
│  2010   │         21,181人          │         15,400人         │          72.7%              │
│  2011   │         20,256人          │         14,990人         │          74.0%              │
│  2012   │         21,231人          │         15,070人         │          71.0%              │

 それにもかかわらず、2012年度募集定員で、府・市両教委は中学卒業生分にみあう定員増分を大幅にへらし、私立高校へ「丸投げ」してしまったのです。
 【表1】のように公立高校の募集定員は、公立中学卒業生数に合わせて、京都ではこの数年、公立:私立=73:27でほぼ推移していました。ところが、今年の公立高校の定員は71%しかありません。73%になるには3.大多数に学習意欲をなくさせる教育から、人格形成の教育課程づくり・教育実践へあと430人定員増が必要です。
 市教委の募集定員説明資料「議第14号」によると、府・市両教委と京都府私立中学高等学校連合会は、「京都市・乙訓通学圏の公立中学卒業見込数が約660名増加する分については、私立高校全日制が定員を超えて600名を実質的に受け入れる。そのため、これまで以上に推薦・専願で受け入れる生徒を増加させるとともに、2次募集も実施する」としています。
 ところが、9月3日、新聞発表された私立高校の外部募集定員の総数は前年度比155人減。同連合会会長は「府・市両教委との合意前に各校が定員の大枠を固めていたので定員減の発表となった。しかし、1.5次や2次募集を行い、積極的に進路先確保に努める」とコメントしています。
 これは、とても受検生の立場に立ったやり方とは思えません。
①定員を発表した上で、その定員を大幅に超えて、「これまで以上に推薦・専願で受け入れる」ことを公言するのは、「出願すれば合格する可能性が高い」という幻想を振りまきます。
②出願状況に偏りが起こるので、受検者が集中した学校でも、教育条件を悪くしないために、高校卒業生分を大幅に越えて合格者を増やすことはむずかしく、期待するほど合格できません。
③「合格する可能性が高い」と思っているだけに、「推薦」で合格できなかった中学生の精神的な動揺は大きくなります。
④私立の合格発表から公立の一般入試出願までは数日しかなく、しかも京都市内の公立定員が大幅に縮小されているので、中学生はいっそうの不安におびえることになります。   
⑤公立高校の定員減を嫌うため、公立全日制の定員割れも促進されるでしょう。公立全日制への合格に自信が持てない受検生が定員枠の少ない私立の2次募集や夜間定時制に集中し、はからずも合格できない受検生が増える恐れがあります。 
⑥さらに、私立の広域通信制への進学も増えるでしょうが、本部が他府県の場合は京都の修学支援事業の対象外なので、高額の学費負担に苦しむことになります。
 激しい自由競争にさらすことで、希望の学校に合格した生徒も、希望でない学校に合格した生徒もともに喜べなくなるのではないでしょうか。中学校卒業生にこのような苦難を強いる定員の設定が適当だとは絶対に思えません。
 公立高校が定員を確保すれば、京都市北・南通学圏の「総合選抜」で高校に通うことができます。「総合選抜」を「単独選抜」に切り替えるための、私立高校を巻きこんだ壮大な実験のようなやり方は決して容認できません。

3.大多数に学習意欲をなくさせる教育から、

      人格形成の教育課程づくり・教育実践へ

 2011年度の山城通学圏に続いて、2012年度から口丹・中丹・丹後通学圏でⅠ・Ⅱ類の類・類型制が廃止され、普通科としての募集変更になります。普通科としての募集ですが、入学前の診断テストと希望に基づいてコース分けとクラス分けが行われ、その結果、「ほぼ成績順のクラス編成」となります。1ヶ月間時期が遅れただけで、制度疲労を起こした類・類型別と大差ありません。
 ベネッセが行う高校教員対象の「(高校)低学年指導研究会」という説明会で、この2年間トピックに上がっているのは、「入学後、ほとんど家庭学習をしない比率が他の都府県と比較して、京都は圧倒的に多い」ことです。
 その理由を分析して、「専門学科やⅡ類、特進コースの生徒が難関大学に合格するが、一部の先生しか盛り上がってない。一方で、大多数を占めるⅠ類や総合コースの生徒は盛り上がりを共感できない」からだと結論づけています。
 入学してくる生徒の多くは、教科ごとでも、教科の内容でもアンバランスな理解になっています。また、学習も塾頼みのポイント暗記の積み重ねで、自分で教科書を読み、問題集を解いて考えるという自学自習の習慣を持たずにきています。
 それに対して、学習習慣を身に付けさせるために、多くの学校で、毎日課題や週末課題が課されていますが、内容が未消化のままで理解できずに思考停止状態になっているのではないでしょうか。
 「進学もしたいが、クラブもしたい。充実した高校生活を送りたい」というのが大多数の生徒のホンネなのに、学校は今、勉強をとるか、クラブをとるかの二者択一の時間競争を迫っています。生徒の限られた時間を「勉強だけに」あるいは「クラブだけに」、できるだけ多く割かせようとするため、生徒個人の中で両立できずに、かえって自信と勉強に対する意欲を失わせているのです。
 大切なことは、早い段階から進路希望やコースによって学びを細分化するのではなく、個々の生徒に「わかる喜び」や「できる喜び」を実感させながら、自主活動も含めたさまざまな体験を通じて人格形成を行い、自分の生き方や進路を見つめていくような教育課程づくりと実践を、学校が集団的に行うことです。

4.「特色選抜」枠の拡大は、部活動の停滞を招く

 10%だった特色選抜の募集定員が、京都市北・南通学圏では総定員の15%に、山城通学圏では20%に拡大されました。
 特色選抜は、①選考内容が点数化しにくく、合格基準が不明確なこと、②高倍率になるが、不合格になった生徒も一般選抜で合格するため、受検生には不要な劣等感を生むこと、③部活動実績を持つ受検生が一定の学校に集中することなどの弊害が指摘され、近年、「一般選抜」に一本化する県が相次いでいます。
 どの高校も部活動を奨励していますが、80%が加入している学校から、40%しか加入しない学校まで、この点でも「格差」が進行しています。また、特定の部に極端に集中する傾向も見られます。その結果、体育系の部でも、「部員が集まらない」「中心になる生徒がおらず、入ってもすぐ辞めてしまう」という声が聞かれるようになっています。
 部活動や学園祭などの自主活動を通じて、また、異年齢集団の交流を通じて社会性やコミュニケーション能力が培われ、自尊感情を高めることによって進路を切り拓いていくようになるというのが、青年期の若者に共通した特質です。たとえ、その時に人間関係がうまく行かない場合でも、そのことを通じて、改めて自分を見つめる機会を得ることができます。
 高校生活という時間にとって、もっとも重要な発達の保障を奪うおそれのある制度は改善されるべきです。

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